テレワークやクラウドサービスの普及により、VPNの利用は企業活動において見慣れた光景となりつつあります。一方で「VPNが遅い」「繋がりにくい」といった声も多く、業務効率やセキュリティに影響を及ぼすケースも少なくありません。
本記事では、VPNが遅い原因とその対策を体系的に解説し、最適なネットワーク設計のポイントを紹介します。アルテリア・ネットワークスのVPNサービスの導入事例も交えながら、実践的な改善策をご提案します。
VPNが遅くなる主な9つの原因
VPNが遅い原因には、端末やインターネット回線、設定や機器、そしてサーバー側の問題など、さまざまな要素があります。
本章では、VPNの速度が遅くなる主な原因として、9つのポイントを挙げて詳しく説明します。
①VPNサーバーに負荷が集中している
ユーザーが一斉にアクセスすると、VPNサーバーの処理能力を超えて速度が落ちることもあります。出社・退勤時や大勢が参加するオンライン会議など、通信が混雑しやすくサーバー側の帯域や機器の処理能力を超えてしまうことがあります。通信品質を安定させるには、サーバーの設計や運用方針の見直しが大切になるでしょう。
②暗号化処理の負荷
VPNは通信の安全性を確保するために暗号化を行いますが、この処理が端末やルーターに負荷をかけることがあります。特にL2TP/IPsec、SSTPなどの古い暗号化プロトコルを使用している場合、速度が落ちやすくなります。IPsec/IKEv2などの比較的新しいプロトコルや、処理能力の高い機器を選ぶことで改善される可能性があります。
③契約している回線やVPNが遅い
インターネット回線やVPNサービス自体の速度が遅い場合、どれだけ端末側の設定を最適化しても、通信速度の向上には限界があります。特にベストエフォート型回線や低価格帯のVPNサービスでは、混雑時に大きく速度が落ちることもあります。安定した通信を確保するには、回線品質やVPNサービスの性能も重要な選定ポイントです。
④サーバの距離が遠い
VPN接続先のサーバーが物理的に離れていると、通信距離が伸びて応答に時間がかかります。海外のVPNサーバーを使用している場合など、レスポンスの遅延が顕著です。速度重視の場合は、物理的に近いロケーションを選択したほうがよいでしょう。
⑤MTU値の調節ができていない
MTU※1は1回の送信で扱えるデータの最大サイズを指し、VPN通信にも大きく影響します。特に経路の最小MTUを超えるような設定だと、パケットの断片化やパケット廃棄が起きることで処理効率が落ち、通信速度の低下を招きます。自動調整機能がうまく動作していない場合は、手動での最適値設定が必要です。
※1 MTU: Maximum Transmission Unitはネットワークで一度に送信できる最大のデータサイズのこと。
⑥端末の処理能力の低下
PCやルーターなどの端末が古い場合や負荷が高い状態では、VPNの接続処理や暗号・復号処理に遅延が生じます。特に複数のアプリケーションを並行して動かしている場合や、バックグラウンドで重いプロセスが実行されている場合は、処理能力が逼迫するため、VPN利用時は端末のリソース管理にも配慮する必要があります。
⑦プロバイダ(ISP)のトラブル
VPNの通信品質は、利用中のインターネットプロバイダの影響を受けることがあります。回線の混雑や帯域制限によって、VPN以前にインターネットそのものの通信速度が低下することもあります。回線そのものの見直しやIPoE接続への切り替え、バックアップ回線の用意などが対策として考えられます。
⑧Wi-FiやLAN環境の影響による通信の遅延
Wi-Fiの電波が弱い、干渉が多い、ルーターの配置が悪いといったLAN環境の問題は、VPN以前の段階で通信を不安定にさせる要因になります。2.4GHzは混雑に影響を受けやすい一方で遠距離には強く、5GHzは高速ですが距離・障害物に弱いなどの特性があります。状況に応じて5GHzの活用や有線LAN、チャンネル最適化、ルーター配置の見直しを行うと遅延改善につながります。
⑨UTM経由のインターネットVPN接続
企業ネットワークでは、VPN接続の経路上にUTM※2を設置しているケースがあります。UTMには、ウイルス検知やWebフィルタリング、アプリケーション制御など複数のセキュリティ機能が集約されているため、通信の遅延や速度低下が発生する場合もあります。特にIPS(侵入防御)、サンドボックス、といった負荷の高い処理は、VPNトラフィック全体のパフォーマンスに影響するため、接続の安定性確保には、UTMの設定や装置の処理能力の見直しが重要です。
※2 UTM:統合脅威管理のこと。ファイアウォール、アンチウイルス、IPS/IDS、Webフィルタリングなど複数のセキュリティ機能を1台に統合し、ネットワークの出入り口でまとめて管理する。
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VPNが遅い時の解決法
ここでは、すぐに試せるVPNの遅延対策から中長期的な回線の見直しまで、具体的に8つの方法を紹介します。
①VPNポートやプロトコルを切り替えてみる
使用中のVPNプロトコル(OpenVPN、IKEv2、WireGuardなど)を変更することで、通信の混雑や制限を回避できる場合があります。企業ネットワークでは、特定のポートが制限されているケースもあるため、設定変更を試すのも有効な手段です。
②VPNの暗号化設定を見直す
暗号化の強度が高すぎる場合、端末やVPNサーバーに過剰な負荷がかかることもあります。通信内容とセキュリティ要件を踏まえたうえで、端末やサーバーに適切な暗号方式(AES-GCMなど)への切り替えを検討しましょう。
③VPNやプロバイダのプラン見直しやリプレイスを行う
現在利用しているVPNや回線サービスの契約が利用実態に適していない場合は、契約プランの見直しや、より上位のプランやサービスへの切り替えを検討しましょう。IPoEや閉域VPNであれば、通信の安定性向上が見込めます。
④より近いサーバーを選択する
VPN接続先を自動で選んでいる場合、物理的に遠いサーバーや海外サーバーを経由していることがあります。手動で距離の近いサーバーを指定することで、通信距離が短縮され、遅延が改善される可能性があります。
⑤MTU設定を変更する
MTUは、1回に送信できるパケットの最大サイズを指し、MTU値が適切でないとパケットの断片化や廃棄により再送が発生し、通信速度の低下につながることがあります。通信の安定性を高めるためには、VPN機器に応じてMTU値を調整することが有効です。一般的には1350~1400バイトの範囲で手動設定することで、パケット処理が最適化されます。ただし、環境によって最適値は異なりますので実測のうえ設定を調整するとよいでしょう。
⑥再起動を行う、有線LAN接続に切り替える
PCやルーターの再起動を行うことで、一時的なバッファや不具合が解消される場合もあります。また、無線LANよりも安定性の高い有線LANを使用することで、通信の途切れや速度低下を防ぎます。
⑦プロバイダに確認する
VPNの遅延が特定の時間帯に偏っている場合、調査結果も踏まえてインターネットプロバイダに相談するのも有効です。IPoEや上位プランへの切り替えで改善することもあります。
⑧ローカルブレイクアウトの導入による通信分散
特定のSaaS(Microsoft 365、Zoom等)※3への通信が遅い場合、本社経由ではなく直接インターネットに接続させる「ローカルブレイクアウト」※4が有効です。ローカルブレイクアウトとは、社内ネットワーク経由ではなく、拠点ごとに直接インターネットへアクセスさせる通信方式で、遅延やデータセンターの帯域逼迫を回避できます。これにより、本社のサーバーやUTMの負荷を軽減し、遅延が解消することもあります。
※3 Microsoft 365:米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
Zoom:Zoom Video Communications, Inc.の商標または登録商標です
※4 ローカルブレイクアウト(LBO):企業などのネットワーク環境において、特定の通信をデータセンターや本社を経由せず、各拠点から直接インターネットに接続させる技術を指す。
企業ネットワークにおけるVPN最適化のポイント
VPNの通信速度とセキュリティを両立させるには、社内ネットワーク全体の設計が重要です。回線品質や装置性能だけでなく、VPNの接続方式やアクセス経路の工夫も求められます。ここでは最適化のための4つの視点を紹介します。①UTMやFirewallとの相性を考える
企業のネットワークでは、VPNとあわせてUTMやファイアウォールといったセキュリティ機器を導入することが一般的です。置き場所やポリシー、検査機能の有効化が適していないと、ポート制限や詳細検査の負荷により遅延や速度低下が起きます。
TLS検査やIPSなど処理の重いセキュリティ機能は対象通信に限定します。あわせて、SaaSはローカルブレイクアウトで拠点から直接アクセスさせることで、セキュリティを保ちつつ安定性と速度の両立がしやすくなります。
②インターネットVPNと閉域網を使い分ける
インターネットVPNは、導入が簡単でリモートワークや外出先からのアクセスに向いています。しかし、重要な業務システムの接続には、閉域網(たとえばIP-VPNや広域イーサネットなど)を利用することが有効です。これにより、よりセキュアで安定した環境を実現できます。
③常時接続・自動再接続VPN
VPN接続が業務中に頻繁に切断されると、作業効率が下がり、再接続の手間もかかるため、生産性が大きく落ちることもあるでしょう。特に、在宅勤務や複数の拠点から接続することが多い企業では、常に接続できる仕組みや自動で再接続できるVPN構成を導入することが重要です。
一方で、切断の原因(回線の混雑やWi-Fiの弱さ、サーバー負荷)を直さないと再接続が頻発するだけです。機器や回線の見直しなど、抜本的な対策と並行して取り組むことが大切です。
④VPN乗り換えの検討ポイント
現在利用しているVPNについて、通信速度や安定性、サポート体制などに不満がある場合は、他のサービスへの乗り換えもおすすめです。新しい事業者を選ぶ際は、通信品質や対応プロトコル、管理機能に加え、サポート体制やセキュリティとネットワークの両方を柔軟に対応できるケイパビリティなどを総合的に判断することが重要です。
アルテリア・ネットワークスでは、インターネットVPNはもちろん、閉域VPNや専用線、NFVなどあらゆるネットワークサービスに対応しています。
アルテリア・ネットワークスのVPN導入事例
本章では、実際にVPN環境を改善した企業の事例を紹介します。いずれも通信の安定性やコスト削減、セキュリティ強化といった効果を実感した例であり、これから導入を検討する企業さまにとって具体的なヒントになるでしょう。①株式会社ハセガワ様|セキュリティと通信コストの見直しを同時に実現
全国の拠点に専用線を用いた社内ネットワークを構築していた株式会社ハセガワ様は、既存のネットワークのコストの高さと帯域の狭さに悩まれていました。アルテリア・ネットワークスの閉域VPN(VECTANT クローズドIPネットワーク)により、月額コストを約1/3に削減しながら、帯域の大幅増加を実現。営業支援システムなど、基幹システム以外のアプリケーション利用も可能になったことにより、業務の柔軟性が向上しました。
②株式会社ソフトウェア・サービス様|診療データの遠隔バックアップ回線を短納期で敷設
医療機関向けにシステム提供を行うソフトウェア・サービス様は、従来依頼していた通信事業者では全国の医療施設へ回線を敷設するにあたり時間がかかるため、「診療データ遠隔地バックアップ」サービスの新規営業を阻む要因になっていました。そこで、アルテリア・ネットワークスのクローズドIPネットワークに切り替えることで、安全性の高い閉域VPNを短納期で構築でき、通信の安定性が向上。結果として、回線敷設の工数が大幅に短縮され、スピーディなサービス提供が可能になりました。
③SBSホールディングス株式会社様|物流現場の通信品質と安定性を確保
420拠点にわたるSBSグループのイントラネットでは、通信の輻輳による途切れや接続遅延が発生し、物流システムに支障が出ていました。アルテリア・ネットワークスの閉域VPN(クローズドIPネットワーク)とVECTANT セキュアクラウドアクセスによって、拠点ごとに最適な回線を構築し、スムーズな切り替えを実現。結果として、倉庫管理システムなどの業務停止リスクが軽減され、グループ全体の業務継続性が強化されました。
まとめ
本記事でもご紹介したように、VPNが遅い原因は多岐にわたり、ネットワーク回線そのものの品質・ユーザー環境・設定ミス・機器性能などが複合的に影響しています。対策には、MTU設定の調整や暗号化方式の見直し、ローカルブレイクアウトの導入など、段階的な対応が有効です。また、通信の安定性とセキュリティを両立させるには、ネットワーク構成全体の最適化が求められます。
アルテリア・ネットワークスでは、ネットワークの設計から導入、構築まで一貫して対応しており、最適なVPN環境の実現をご支援しています。いつでもお気軽にご相談ください。









